[SFSジャーナル Smile Leaders]

#SmileLeaders 004
ホームレスワールドカップ

ホームレスワールドカップを知っていますか?
~ホームレスがめざす“ゴール“~

July, 2011

誰もが憧れる街、華の都パリ。その世界的大都市で、今夏あるグローバルスポーツイベントが開催される。凱旋門から北西に広がる、映画の舞台ともなったシャン・ド・マルスに世界中から集うのは、ホームレスのサッカーチームだ。

Champ_de_Mars_from_the_Eiffel_Tower_-_July_2006_edit.jpg ホームレスが、サッカーを?

意外に思う方も多いかもしれないが、ホームレスワールドカップは、今や世界では女子も含め参加チーム60以上を誇る大規模イベントだ。参加選手は累計で5万人にものぼる。もちろん、FIFAワールドカップで活躍するような選手が「選手として」出てくるわけではない。でも、ナイキやUEFA(ヨーロッパサッカー連盟連合)も創立パートナーを務め、プレミアリーグのアーセナルや世界的に有名な選手もバックアップする、世界注目のイベントである。

ホームレスワールドカップ共同創始者のひとり、メル・ヤング氏は、シュワブフェローでもあり、世界が認める社会起業家だ。世界経済フォーラムでは、スポーツカウンシルのメンバーも務められている。彼は、ホームレスワールドカップ創立の動機について熱くこう語る。

「社会問題はもちろん他にもたくさんある。でも町にホームレスがたくさんいるのは、本当に重大な問題であり、国の危機であり、放置できない問題です。」

もともとは地元スコットランドのジャーナリストだったが、1993年にビッグイシュースコットランドを共同創立、2003年にオーストリアでストリートペーパーを発行していたシュミード氏に出会ったとき、お互いサッカー好きだったふたりは、世界のホームレスが集いサッカーを楽しめるようなイベントをつくろうと意気投合したという。

2003年にグラーツ(オーストリア)で開催された第一回大会の参加国は18か国で男子のみの参加だったが、UEFAが3万ポンド(約480万)の協賛金を支出、ナイキも資金援助とともに物品提供で協力した。翌年には、スウェーデンで24か国が参加、2005年には、32チームに増えエジンバラで開催、2006年にはアフガニスタンや中国、ブラジルやウガンダも含む48か国が参加して南アフリカのケープタウンで開催された。その後も着実に規模を拡大し、2008年のメルボルン大会で女性のトーナメントが初めて開催された。

ただ競技としては、サッカーといってもストリートサッカーという、少人数で行うフットサルに近いものだ。ひとつのチームは8名で構成され、全員を大会会場まで連れてくることが義務づけられている。前後半各7分ずつのゲームのコート上でプレイできるのはキーパーを含め4名で、全ての選手に毎日それなりのプレー時間を与えなくてはいけない、という興味深いルールもある。それが守られないと、警告が与えられ、罰則を被ることもあるという。試合形式としては、予選、2次予選、決勝と3つのステージがあるが、それぞれのステージで振り分けられたカテゴリー毎にトロフィーが用意され、すべての参加選手がメダルを授与されるしくみになっている。

これだけの規模の大会を組織し、継続して発展させながら実施してきたことだけでもすばらしいのだが、ホームレスワールドカップが画期的なのは、その明快な目標設定と目標達成の鮮やかな実績にある。

例えば、2007年コペンハーゲン大会の半年後に実施された調査では、これまで参加した選手のうち7割の人生をドラスティックに変えた、という結果が出ている。参加者の93%が新たな生きがいを見つけ、83%が社会とのつながりに改善がみられた、と答えている。また、32%が学業を開始、29%が仕事を見つけることができた、いう結果も出ており、ホームレスワールドカップの「ホームレス状態に終止符を打つ」という目標に対し、かなりの達成度を示すこととなった。「サッカーの振興」はホームレスワールドカップの第一の目標ではないが、参加選手の7割が、大会後もサッカーを定期的に続けているようだ。ホームレスワールドカップの参加手続きや練習の運営は各国のビッグイシューを通じて行われているが、今では世界60か国で定期的な練習が開催されるまでになった。

ところで、ホームレスワールドカップの出場資格は、16歳以上で過去1年間にホームレスの状態にあったこと等であるが、その資格は一度しか使えない。つまり、これまでの大会に出場した選手は、今年まだホームレスの状態にあっても、出場資格はない。「ホームレス状態に終止符を打つこと」がゴールであるから、大会参加後に自立していることを期待するためだ。なので、ワールドカップのように、スーパースターがいる国がしばらく栄華を極める、というようなことは起こらない。

さて、このホームレスワールドカップに、今年、日本からも代表チームが参加する。チーム名は、“野武士ジャパン”。ビッグイシュー基金が練習を運営し、代表選手を選考するのだが、実は、今年のホームレスワールドカップに日本が参加できるかどうかは、3月11日の震災が起こった時点では、確約されていなかった。十分な旅費が捻出できていなかったからだ。実際、震災直後に企画されていたファンドレイジングのチャリティフットサルイベントは、節電対策により一度中止になりかかった。

でも、直前になって、実施が決定した。というのも、自分たちが大会に行くための資金がまだ十分ないなか、選手たちが、震災支援のためのチャリティマッチをやりたい、と言い出したからだ。私がこの情報を得たのはたしか前日か前々日くらいだったが、早速飛んで取材に行った。

日本では、ホームレスというと、「自分の努力が足りないから仕事も家も失くした人」という偏見を持っている人も少なくないだろう。そういうこともあるが、実際は今回の震災と同じくらいの偶発的な原因で、ホームレスになってしまった人が多いという。ビッグイシュー基金の担当者の話によると、とくに近年、ホームレスの若年化が進んでおり、親からの虐待を受けたり、青年になってある日突然一緒に暮らしていた親が実の親ではないことを告げられ放り出されてしまった、というような方もいる。私もこれまでホームレスの実態についてそれほど詳しくなかったのでその現実に落胆した。

CIMG1906.JPG“野武士ジャパン”チャリティフットサル大会は、実際のところ、UBS証券会社が基本的な企画をし、シティグループの協力も得て実現したイベントだが、他にもいくつか外資系企業の会社が協賛しており、チームとしても参加していた。中には役員クラスの参加も目立っており、UBS証券会社の株式本部長、高橋太一さんは、ホームレス支援の意義についてこう語ってくれた。

「自分もサッカー好きであると同時に、会社役員として、スポーツを通した社会貢献活動により多くの社員たちが関わってほしいと思い、 こうしたイベントは積極的に参加するようにしています。震災支援は大切です。と同時に忘れられてはならないコーズもあります。ホームレスの方々のように、これまでの支援が途絶えてしまったら、困ってしまう人もいるのです。」

このチャリティイベントの運営も担当した同社のCSR活動を担う堀久美子さんは、金融業界のコミュニティ支援プログラムで100社から6500人が参加してきた”FIT For Charity Run” の統括者としても活躍してきた経験もあり、ホームレス支援にも深く関わってきた。また、コミュニティ開発プログラムの一環としてホームレスを支援してきたシティグループの執行役員ガイ・マシューズ氏も、自らユニホーム姿で登場し、自慢のプレーを披露していた。

まだ震災後1か月もたっていない時だったので、自粛ムードも完全に解け切らない時期ではあったが、途中で「ちょっとたばこ吸ってくらあ・・・」と勝手に休憩しようとして「こらこら、まだ終わってないからだめです!」と注意されてゲームに戻るホームレスチームの選手がいたりと、微笑ましい場面も見受けられた。そして、大会が終わるころには、参加者全員がひとつになったような空気を感じた。

Smile Leaders 004 pic d.jpgその連帯感を目の当たりにしたとき、これは是非、練習も取材しなくては、と思った。自分には家も仕事もないのに、震災支援をしようと思える美しい心を持ったホームレスの方々が目標を持って日々努力する姿を見たい、と思ったのだ。

それは数週間後に実現したのだが、これまで練習を取材しに来た人はそれほど多くはないと聞き、私は少し緊張していた。でも、練習場の公園に到着して自己紹介すると、皆さん快く受け入れて下さり、安心した。「僕の写真とって~」と元気にひとなつっこく話しかけてくれる若者もいて、私も元気になれた。練習中は、真剣そのものだったが、ちょっとした空き時間には常にジョークが飛び交い、「ナイッシュー」という掛け声やハイタッチがみられるなど、このひとときがホームレスの方々にとっていかに大切な時間であるかがありありと伝わってくる光景ばかりだった。

だが、彼らがサッカーの練習をする時間をつくりこうして集まることは、実はそれほど容易なことではない。というのは、彼らのほとんどはビッグイシューというミニ雑誌を路上販売して生活資金の一部としているのだが、練習に参加すれば、その分売上が確実に減るからだ。参加者にはおにぎりと銭湯のチケットは提供されるそうだが、週末の売上率の高い区域の担当者にとっては、雑誌を売っていた方が利益ははるかに高いのが実情だそうだ。

それでも、彼らは“仲間“と一緒にサッカーをするために練習に参加する。実際、私が練習を取材した当日は途中から雨が降ってきて、選手たちはみな泥まみれになっていたが、誰ひとりとして途中で帰るものはいなかった。「泥まみれの練習」という現状を嘆きあきらめるのではなく、それをジョークにして高らかに笑い、今を楽しむ。彼らは、もしかしたら家も仕事もあって体裁のよい日常生活を営んでいる人が最も必要としているかもしれないその術を持ち合わせていた。

コーチをしていたのは、日本政策投資銀行に勤務する蛭間芳樹さん。六本木ヒルズで開催されている日本元気塾(米倉誠一郎塾)でビッグイシュー基金について知り、約1年前にボランティアコーチを申し出た。

「最初はドリブルをするのもまともにできない状態でした。」と蛭間コーチは振り返る。「毎回の練習メニューは基礎中の基礎、小学校低学年クラスの練習メニューですが、アドバイスしたことはきちんとこなし、成果が見えるのはとてもやりがいがあります。今では、毎週練習しているような外資金融のチームにも、結果的には負けまずが、こてんぱんにやられることはありません。」

また、サッカーを通して得られる価値について、蛭間コーチはこう付け加えた。「このチームのミッションは勝つことではなく、常に楽しむこと。日々の生活や人生と同じです。チームとしての目標と、その中における自分の役割を認識し、理解し、受け入れ、自ら考え次のアクションを起こすことができるか、私はその過程を見守り、助言しているのです。それは、彼らの次の人生のステップを踏み出すために必要な何かに繋がると思うのです。勝つべき相手は過去の自分なのです。」

Smile Leaders 004.JPG以前にSmile Leaders #002でレポートしたスペシャルオリンピックスの理念にも「昨日の自分に勝つこと」とあるが、これは、全ての人が持てるゴールである一方、達成はそれほど簡単ではない。

とはいえ、ホームレスワールドカップは勝利をめざす大会で、世界ランキングもあり、日本は68チーム中60位、がんばる余地は多いにある。ちなみに先回の第8回リオ大会の優勝国はブラジルだった。ビッグイシュー基金の長谷川知広さんは、

「今回は震災もあって、選手たちは出場できる幸せを改めてかみしめています。この経験が、彼らの自立に向けてよりよい形で反映されればと思います。」と抱負を語る。

そして、取材に対して一貫して非常に協力的で、親切に対応して下さったヤング氏は、日本チームに関する情報も教えてくれた。

「そうそう、日本代表チームが参加するといつも大人気なのだよ。」

私が驚いていると、日本代表チームの選手は、丁寧でフレンドリーだからいつも日本チームのまわりには人がたくさん集まるんだ、と説明してくれた。海外では、例えば紛争等が原因でホームレスとなり参加している選手もいたりと、それぞれ闘っている現実は様々ななか、中にはプロ契約もしてしまうケースもあるようだが、日本は人気度で世界一の座を占めているようだ。

この画期的なグローバルスポーツイベントを立ち上げ時から全面バックアップしていたUEFAのマインドと姿勢も注目だ。社会的責任プログラムを統括するパトリック・ガッサー氏はUEFAのホームレスワールドカップへの支援についてこう語る。

「我々は、サッカーは、社会的責任をもって柔軟かつ明快なポリシーのもとで、社会に有益なものをもたらすチカラとして活用されるべきだと信じています。そのとき初めてサッカーは、スタジアムを超えて人々の態度や行動に影響を与える力を発揮することができるのです。」

そして、こう付け加えた。「UEFAは、ホームレスワールドカップを初回の2003年のグラッツでのイベントから支援していますが、それは、サッカーとの関連性が高いことと、ゴール設定が明確なこと、インクルージョンを促すためのツールとしてサッカーを見事に活用しているからです。UEFAは、サッカーを通じてホームレスの人々を支援するというホームレスワールドカップの理念を設立当初から共有しています。UEFAにとっては、サッカーの発展だけでなく、ホームレスをなくすことも大切なことなのです。」

スポーツ団体が、「ホームレスの人々の自立」が大切だと断言し、それに寄与するために投資をする。UEFAは他にも人種差別問題等、積極的に社会課題の解決に取り組んでおり、世界でも最も先進的なプログラムを展開しているが、21世紀はもうスポーツ界がスポーツの発展だけを目標とする時代ではない、と認識させられる。そんな時代に、「子どもたちの健全な育成」「健康のため、障がい者のため」というようなクリアでウケのよいフレーズだけに留まっていては認められない。海外のある関係者は、「それも重要だけど、スポーツができることのほんの一部だね。」と言っていたが、グローバルでは今や、スポーツの社会的責任が盛んに議論され、「スポーツで“社会貢献”」からもう少し進化し、積極的に社会課題と関わる「社会変革」を推進する姿勢を期待されているのが現状だ。

メジャースポーツの世界連盟加盟国の約半数の国々が参加するグローバルの舞台で“スポーツのチカラ”を活用し華々しい成果を上げてきたホームレスワールドカップから、私たちが学べることは計り知れない。

取材・文:梶川三枝/ 写真:Creative Commons, 梶川三枝

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